
洞爺湖サミット(2008年 主要八ヵ国首脳会談)」会期中、福田首相(当時)主催の晩餐会に参加した各国首脳を唸らせた、フランス料理のフルコース。北海道産食材をふんだんに用いたそれらのメニューは、北海道を代表するフレンチシェフ中道 博氏が、晩餐会会場のホテル総料理長らとともにプロデュースしたもの。北海道産の食材、北海道という土地に対する、中道氏のこだわりをうかがった。
- まず、北海道でフランス料理店をオープンさせたきっかけは何でしょう。
中道 日本で、気候や気温、食の好みが最もフランスに近いのは、北海道だと思うんです。料理人としての修行を始めたのが北海道だったから、ちょっと贔屓し過ぎかもしれないけど。
食べ物の文化や嗜好は、やはりその土地の気候・風土によって微妙に異なっています。これまで3〜4回ほど九州を訪れたことがあって、地元の料理も食べましたが、脂っぽいエネルギッシュさと言うか、温かい地域ならではの野趣を強く感じたんですよね。同じフランス料理であっても、九州のレストランで出される料理には中華料理的なボリューム感がある。ドテッとした重量感がある。
それに対して、北海道の料理は線が細く、街の歴史が浅いことによる自由さを持っています。地場食材も、北海道でしか得られない味わいと言えるでしょう。北と南、どっちが良いとか悪いとかではなく、僕が目指しているフランス料理を思う存分料理できて、それを喜んで受け入れてくれるのは、やはり北海道の人々だろうと感じたんです。
- 北海道以外の場所にレストランを出すお考えは。
中道 店を出してくれという話を頂いて、私がその土地に出かけてピンとくるものがありさえすれば、月に出店したって構わないと思ってますよ(笑)。
ただ、レストランの善し悪しは、店の見栄と料理だけで決まるものでは無い、というのが僕の持論。あの店に行こうと決め、家を出発して店に着くまでの過程、テーブルに着いて食べ終わるまでの過程の全てが、レストランの「ストーリー」になると思うんです。だから、店の周辺がごみごみしているような繁華街の雑居ビルなどには、絶対に出店できないし、常に新鮮で美味しい食材を調達できる経路も必要。それを考えると、やっぱり北海道以外の土地は考えにくいですね。
- 「モリエール」以外にも数ヵ所のレストランを出しておられますが、経営者としての夢は。
中道 料理人という経験を基本にして複数の店を運営してはいますけど、僕はプロの経営者じゃありません。料理と経営とを両立できる人物なんて、そう多くは無いんじゃないでしょうか。
あえて言うと、「共同体の団長」みたいな立場ですよ。複数の料理人や店舗運営に詳しい人間が集まり、「あの場所にこんな店を出したら面白いんじゃないか」「ここには、こういうスタイルの店が合うんじゃないか」という目標ができるたび、それにふさわしいメンバーを集め、目的を遂げたら解散する……といった感じの共同体。ただ、本当に解散しちゃうと生活基盤が無くなってしまうから、形の上では会社組織にしていますけどね。このやり方だと、大金は稼げないかもしれないけど、色んな面白いコトができるでしょ。
多くの料理人は、「自分の店を持つことが夢」と言うけれど、それはスタートであり通過地点であって、夢では無いはず。「自分の店」という手段を通じて、何をやりたいのか、何を得たいのかが、本当の夢だと思うんですよ。そういう意味で、僕は経営者としてではなく共同体の団長として、色んなスタイルの店を作って多くの人たちに喜んでもらうという夢に取り組んでいます。
中道 博 HIROSHI NAKAMICHI
北海道登別生まれ。1974年に渡仏後、リヨンのル・ピドールを皮切りに、ウスートー・ド・ボーマニエールなどで3年間の修行の後、帰国。1982年クラーゲンフルト(オーストリア)で行われた世界料理コンクールに日本代表として参加し、金賞、特別賞を受賞。1984年に現レストラン「モリエール」を開店。その後「プレヴェール」「マッカリーナ」などを開店。2006年より「ザ・ウィンザーホテル洞爺湖」の顧問も務めており、洞爺湖サミットの際にも料理を提供。