
日本を代表するジャーナリストの一人、鳥越俊太郎氏。幅広い知識と経験、独自の考察に基づく論調を展開する、まさに「ニュースの職人」である。4度にわたる癌摘出手術を克服し、テレ朝「スーパーモーニング」をはじめ様々な報道番組で活躍中の同氏に、「生きること」について尋ねた。
-鳥越さんは1980年代半ばに、イラン・イラク戦争の戦場報道を行っておられますが、戦争を間近に見ることで「生きる」ことに対する想いは変わりましたか。
鳥越 イスラム社会における命の価値観と、日本人が感じる生命の重さが違うことを痛感しました。
イスラム教徒たちは、命を賭して宗教と国を守ることを殉教と考えていますから、死ぬことを厭わない。むしろ、天国に行けることを歓びながら自爆テロを敢行するわけです。第二次世界大戦中、日本にも「神風特攻隊」という自爆部隊がありましたが、あれは決して殉教ではない。命を捨てることに、歓びを感じていたわけでは無いでしょう。
9.11(アメリカ同時多発テロ)に象徴されるように、イスラム教徒の過激派は、宗教という武器でアメリカの近代兵器と闘えると考えていますから、これは簡単に解決する問題ではありません。
-平気で人命を奪ったり衝動的に自殺したり、近年は日本でも、命を軽視する風潮が広まっているようです。
鳥越 豊かになり過ぎて、「死」が自分の身近に感じられなくなったことが最大の原因でしょうね。戦時中、そして戦後の貧しい時代には、みんなが一生懸命に死から逃げていたんだから、わざわざ自らの命を絶つ人なんてほとんどいなかった。それに比べて現代は、よほどの大病でもしない限り「死」というものが見えないでしょう?
ホームレスをやっていても餓死しない程度の食糧は手に入りますから、発展途上国の貧困層よりはるかに裕福ですよ。年間自殺者数が11年連続で3万人を突破している日本の現状は、豊かさが産んだ「負の副産物」だと言えますね。国が経済的に豊かになったからといって、国民の精神も同様に豊かになるとは限らないということです。
-'05年に直腸癌の手術を受けられて以来、3度の再手術を経験しておられますが、健康管理で心がけておられることは。
鳥越 自分の体の「免疫力」を高めるため、東洋医学に目を向けるようになりましたね。
最初に発見された直腸癌は、ステージ4(※1)まで進行していました。ステージ4の癌と言えば、死に至るケースも少なくないのですが、幸い私の場合、免疫力が少しばかり高かったようで、大腸を約20cm切除することで治癒しました。それ以降は、他の病気と同じように、転移箇所の早期発見・早期治療を心がけているほか、東洋医学に基づく漢方薬を毎日服用しています。
漢方薬で本当に免疫力が高まるのかどうかというエビデンス(※2)はありませんが、同じレベルの癌で死ぬ人と治る人がいるのは、やはり自分の体を守ろうとする免疫力の違いじゃないかと思うんですよ。高齢化が高度に進むこれからの日本では、癌を治すことよりも、癌になりにくい体にすることの方が大切になるはず。先進的な医療技術の研究も大切ですが、免疫力を高めるための食習慣とか生活習慣について、研究・普及させることが、今後の重要課題と言えるのではないでしょうか。
鳩山内閣は「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げていますが、それが本当ならば、必要のないダムや空港に投じていた数千億円規模の予算を使って、「3人に1人が癌で死ぬ」という日本の現状を鑑みた政策を推進してもらいたいものです。前原誠司国交相が建設中止の考えを明らかにした八ッ場ダムは、事業計画の段階で4000億円以上の建設費を計上していましたが、その分の予算を癌治療の研究費として投じれば、日本は世界有数の癌予防・治療技術を持つ国になれるはずですからね。
鳥越 俊太郎 / Shuntaro Torigoe
1940年、福岡県生まれ。京都大学文学部卒業後、毎日新聞社へ入社。社会部、外信部勤務を経てサンデー毎日編集長就任。毎日新聞社退社後、ニュースキャスターとして多くの報道番組に出演。2005年に直腸癌手術を受け、その後も肺や肝臓への転移に伴う再手術を受けるも、現在もジャーナリストとして精力的に活動中。